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東京地方裁判所 昭和34年(行)111号 判決

原告 日本煙草苗育布製造株式会社

被告 関東信越国税局長・佐野税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

1、被告関東信越国税局長が、昭和三四年七月二一日付で、原告の左記各事業年度分法人税に関する審査の請求を棄却した各決定を取り消す。

(一) 昭和二八年七月一日より昭和二九年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和二八事業年度という。)

(二) 昭和二九年七月一日より昭和三〇年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和二九事業年度という。)

(三) 昭和三〇年七月一日より昭和三一年六月三〇日までの事業年度(以下、昭和三〇事業年度という。)

2、被告佐野税務署長が、昭和三三年二月二〇日付で、原告の昭和二八、二九、三〇各事業年度分法人税に関してした各更正処分のうち、昭和二八及び三〇事業年度分についてはその全部を、昭和二九事業年度分については、所得金額一、四七万一、八一二円を超える部分をそれぞれ取り消す。

3、訴訟費用は、被告等の負担とする。

二、被告等

1、原告の請求をいずれも棄却する。

2、訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、原告の請求原因

一、被告佐野税務署長は、昭和三三年二月二〇日付で原告の昭和二八、二九、三〇各事業年度分法人税につき、それぞれ次のとおり更正した。

事業年度      所得金額(円)    法人税額(円) 加算税額(円)

昭和二八事業年度 一、九八五、八五九   八八五、二七〇 四四二、五〇〇

昭和二九事業年度 四、三九八、三〇〇 一、九八二、八六〇 七九六、三五〇

昭和三〇事業年度 一、一七四、三〇〇   四四七、三二〇 一六九、〇〇〇

これに対する原告の再調査請求は、当時の法人税法第三五条第三項第一号により、審査の請求とみなされ、被告関東信越国税局長は、昭和三四年七月二一日付で各事業年度分の審査の請求をいずれも棄却すると決定し、同月二二日原告にその旨通知した。

二、しかし、被告等の処分は、次に述べるとおり違法である。

1、原告の納税地は、本来本店所在地の大森税務署管内であるが、国税庁長官は、昭和三二年二月二四日大森税務署長を通じて、原告の納税地を佐野税務署管内に指定し、被告佐野税務署長は、昭和三三年二月二〇日付で原告の昭和二八、二九、三〇各事業年度分法人税に対する更正処分をし、同月二六日原告にその旨通知した。しかし、右各事業年度は、いずれも前記納税地指定前の事業年度であり、納税地の指定は、指定によつて新たに納税義務者に対する管轄を生じ、指定時前にまで管轄権を拡張するものではないから、被告佐野税務署長は、原告の右各事業年度分法人税の更正について管轄を有さず、これら更正処分及びこれを維持した審査決定は、いずれも違法である。

2、原告は、昭和二八及び三〇事業年度には所得がなく、昭和二九事業年度の所得は金一、四七万一、八一二円であるから、右金額を超えて原告の所得を認定した被告等の処分は、いずれも違法である。

よつて、申立のとおりの判決を求める。

第三、請求原因に対する被告等の答弁

請求原因第一項の事実を認め、同第二項を争う。

第四、被告等の主張

一、被告佐野税務署長の管轄権について。

法人税の納税地は、内国法人にあつては原則としてその本店または主たる事務所の所在地であるが、政府(当時の法人税法施行規則第四一条第一項により国税庁長官)は、法人の事業の状況からみてそれが法人税の納税地に不適当であると認める場合には、当該法人の納税地を指定することができる(当時の法人税法第四六条の三第一項、第三項)こととなつている。右規定が設けられたのは、納税者の便宜を図ることもさることながら、むしろ主として、課税資料のしゆう集を容易にするためであり、この指定があれば、指定をうけた法人に係る課税資料の一切は、新納税地を管轄する税務署長に引き継がれ、引継ぎ後は、旧納税地を所轄する税務署長は、当該法人に関する更正または再調査決定等をすることはできない。即ち右指定により旧納税地を管轄する税務署長の権限は、新納税地を管轄する税務署長に移転することになるが、その権限は、指定をうけた法人の法人税に関する未了の処分一切をすることができる内容のものであり、指定年月日以降の事業年度に係る法人税に関する処分のみに制限されるものではない。国税通則法第三〇条第一項は「更正又は決定は、これらの処分をする際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行なう。」旨規定し、また、同法第七七条は納税地の異動があつた場合の異議申立ては、異議の対象となる処分が異動前の納税地を管轄する税務署長によつて行なわれた場合であつても、現在(異動後)の納税地を管轄する税務署長に対してすべきことを規定しているが、これらの規定はいずれも、更正または決定、異議決定等は課税資料の引継ぎをうけた税務署長の処理すべき事項であるとするものであつて、従前の取扱いを明文化したに過ぎない。なお、昭和四〇年法律第三四号による全部改正前の法人税法第四六条の三第四項が、納税地指定処分が異議申立てに対する決定によつて取り消されても、取消しまでに行なわれた処分の効力に影響を及ぼさないとしているのも、その理由の一つとして課税資料をしゆう集保管している税務署長の処分である以上、処分権限が遡及的に消滅するとすることは著しく法的安定性を害するとする点にあるところ、本件の場合は、指定処分自体が有効として存続しているのであるから、課税資料の引継ぎをうけ、保管していた佐野税務署長が本件処分を行なつたことをもつて、これを権限のないもののした行政処分ということは到底できない。

二、所得金額について。

1、昭和二八事業年度

(一) 所得算出の根拠は、別表第一記載のとおりである。

(二) このうち、原告の争う仮払金三、七一万一、三一九円は、申告にかかる仮払金四六万、四二五円に、原告会社社長安藤仁三郎に対する仮払金三、二五万、八九四円を認定、加算したものである。

2、昭和二九事業年度

(一) 所得算出の根拠は、別表第二記載のとおりである。

(二) このうち、原告の争う仮払金、未収利息、繰越利益金、未納事業税の認定根拠は、次のとおりである。

(1) 仮払金七、〇七万九、九七六円は、申告にかかる仮払金九六万九、〇二二円に、安藤仁三郎に対する仮払金前期分金三、二五万、八九四円及び当期分金二、八六万六〇円を認定加算したものである。

(2) 未収利息金一九万五、〇五三円は、前期仮払金三、二五万八九四円に対する年六分の認定利息である。

(3) 繰越利益金三、六二万五、一五五円は、申告額金三〇万五、三八五円に、当期の利益に関係のない過年度課税済の仮払金三、二五万〇、八九四円、貸倒準備金一五万八、一二一円、減価償却超過額金八万三、二〇五円をそれぞれ加算し、前期認容済の未納事業税金一七万二、四五〇円を減算したものである。

(4) 未納事業税金二三万八、九五〇円は、前期経費として認容済の金一七万二、四五〇円に、前期分の法人税更正による増差所得に対する未納事業税(金五〇万円までは一〇パーセント、金五〇万円を超える額については一二パーセント)として認定した金二二万八、二九〇円を加算し、前記認容の事業税のうち、当期において納付された金一六万一、七九〇円を減算したものである。

3、昭和三〇事業年度

(一) 所得算出の根拠は、別表第三記載のとおりである。

(二) このうち、原告が争う仮払金、未収利息、繰越利益金、未納事業税の認定根拠は、次のとおりである。

(1) 仮払金二一、二九万八、六二五円は、申告額金一二、五三万三、一七〇円に、安藤仁三郎に対する仮払金前々期分金三、二五万八九四円、前期分金二、八六万六〇円及び当期分金二、六五万四、五〇一円の合計金八、七六万五、四五五円を加算したものである。

(2) 未収利息金三六万六、六五七円は、申告額金一万五、一九一円に、前期末現在で安藤仁三郎に対する未申告仮払金と認定加算した金六、一一万九五四円に対する年六分の認定利息金三六万六、六五七円から確定申告において自己否認し加算した金一万五、一九一円を控除した残額金三五万一、四六六円を加算したものである。

(3) 繰越利益金六、七九万三、三九七円は、申告額金五一万八、八五一円に、当期の利益に関係のない過年度課税済の仮払金六、一一万九五四円、貸倒準備金二九万八、一二一円、減価償却超過額一〇万四、四二一円をいずれも加算し、前記認容済の未納事業税金二三万八、九五〇円を減算したものである。

(4) 未納事業税金六七万三二〇円は、前期経費として認容済の金二三万八、九五〇円に、前期分法人税更正による増差所得に対する未納事業税として認定した金四三万一、三七〇円を加算したものである。

4、仮払金について。

(一) 原告会社代表者安藤仁三郎は、関東信越国税局査察官の調査に対し原告の法人税申告書の所得金額には誤りがあること、それは主として屑糸、木管、原糸等の売上を除外し、また架空仕入や架空経費を計上したことによるものであること、原告の申告洩れ所得は、約金二、七〇〇万円であつて、これを預金していることを認めたが、右申告洩れ資産の内訳、発生根拠の明細については、明らかにしなかつた。

(二) そこで、原告関係の資産を調査したところ、申告外のものとして、次のものが認められた。

(1) 定期預金 八口 (別表第四1~5、7、9、11)

(2) 通知預金 一口 (同表13)

(3) 定期積金 一口 (同表14)

(4) 普通預金 二口 (同表16・17)

(5) 株式   三口 (同表18~20)

(6) 貸付金  三口 (同表21~23)

(7) 現金      (同表24)

(8) 土地建物    (同表26・27)

(9) 機械      (同表28)

(三) 右資産について、安藤仁三郎は、その権利者は、いずれも、自己個人であるが、その一部については原告の資産に計上して申告し、他は原告の資産として申告していないと説明した。同人が右のように申告済と説明した部分は、定期預金、定期積金であるが、その具体的預金口座は明らかにし得なかつた。

そこで、被告等において安藤仁三郎の個人資産の動きを検討したところ、別表第四記載のとおり、昭和二八事業年度に金三、二五万八九四円、昭和二九事業年度に金二、八六万六〇円、昭和三〇事業年度に金二、六五万四、五〇一円の不明資産増加が認められた。

即ち、前記(二)記載の申告外資産を含む資産総額より原告申告の資産(別表第四6、8、10、15)を控除し、かつ原告または安藤仁三郎の負債と認められるもの(別表第四25、29、30)を控除して、各期首期末の純資産額を認定し、これより算出される各期中の資産増加額から安藤仁三郎の個人資産増加原因(別表第四33~39)に基づくものを控除した残額(別表第四40)を、同人の不明資産増加額と認めた。

(四) 右資産増加の原因については、それが原告の事業と無関係に安藤仁三郎によつて取得されたものと認むべき合理的根拠は発見されず、かえつて、同人の原告会社における地位、同人の質問調査における供述、及び同人の収入状態等から判断すれば、右資産増加額は、前記のような方法(売上除外、架空仕入、架空経費等)によつて、原告の申告洩れ資産(いわゆる簿外資産)となり、それを便宜安藤仁三郎名義の個人資産としたものと推認されるところ、これらの資産が同人の個人資産となつた原因が明らかでないため、これを賞与と認定することはできないので、右資産は、原告より仮りに同人に支払われたもの、即ち仮払金と認定したものである。

(五) 別表第四記載の項目中、原告が争う貸付金及び晒賃の算出根拠は次のとおりである。

(1) 安藤仁三郎は、昭和三二年二月九日付上申書において、別表第四21ないし23の貸付金の外、昭和二八年六月三〇日現在において、須藤福次郎に金四〇万円(被告認定額別表23金八〇万円との合計で金一二〇万円)、上村俊夫に金一〇〇万円の貸付金があると主張したが、借主を調査したところ、右事実は認められなかつた。

(2) 晒賃(別表第四29)の昭和二八年六月三〇日現在金二〇〇万円、昭和二九年六月三〇日現在金三〇〇万円、昭和三〇年六月三〇日現在金五〇〇万円、昭和三一年六月三〇日現在金五〇〇万円の各金額は、株式会社足利銀行佐野支店における定期預金の調査により安藤仁三郎個人が煙草苗育布織物工業協同組合から晒賃支払として取得した金額より発生していると認められた定期預金のそれぞれの期末における在り高を示したものである。即ち被告等の銀行調査によると、

(イ) 昭和二七年一〇月七日付をもつて晒賃金一〇〇万円の組合当座預金の支払があり、同日付をもつて同額の無記名定期預金の発生があつたこと。

(ロ) 昭和二八年六月一八日付をもつて晒賃金一〇〇万円の組合当座預金の支払があり、同日付をもつて同額の無記名定期預金の発生があつたこと。

(ハ) 昭和二八年八月二九日付をもつて晒賃金八八万八、九〇六円八八銭、同金三一万一、〇九三円一二銭合計金一二〇万円の組合当座預金の支払があり、同日付をもつて同額の通知預金が発生し、更に昭和二八年九月一九日付をもつてこのうちから無記名定期預金一〇〇万円の発生があつたこと。

(ニ) 昭和二九年九月二一日付をもつて晒賃金九六万七、七三四円の組合当座預金の支払があり、なお原告会社の当座預金一一万三、三四八円の支払もあつて、この合計金一〇八万一、〇八二円となるが、同日付の定期入金伝票に1081032/81032とメモしてあり、無記名定期預金一〇〇万円の発生があつたこと。

(ホ) 昭和二九年一二月一六日付晒賃金一一〇万円の現金支払があり、同日無記名定期預金一〇〇万円の発生があつたこと。

等の事実が判明したので、これらの定期預金の各期末の金額を別表第四29欄に控除項目として計上したものである。なお、他の定期預金については組合支払の晒賃から発生していると認められるものが発見されなかつた。

第五、所得金額についての被告等の主張に対する原告の答弁

一、被告等の所得額認定の不合理性について。

被告等は、本訴において、原告の昭和二八、二九、三〇各事業年度の所得額認定の根拠として、原告申告の各期末貸借対照表を修正して所得を認定したと主張するにすぎず、右所得の発生源泉については、唯漫然と売上除外、架空仕入、架空経費に基づくと主張するにとゞまり、その具体的金額、取引内容等をなんら明らかにしない。

しかし、期末貸借対照表を修正して得られた資産の増加を当該事業年度の法人所得として認定するためには、右資産の増加が当該法人の所得に基づくものであること、及び当該事業年度中に発生した所得に基づくものであることが明らかにされなければならず、従つて、右所得の発生源泉が損益計算によつて示されることが必要である。しかも、原告は、仕入、製造、半製品、製品、売上、現金管理等については、ほとんど正確に近い複式の経理をしているのであるから、被告の主張するように、売上除外、架空仕入、架空経費等の経理操作をすれば、仕入その他資金操作、期末棚卸等に大きな矛盾を露呈することとなることは明らかであるのに、被告等は、一年有余に及び原告の売上、仕入、棚卸、原価計算、銀行調査等の全部にわたる完全調査を行いながら、なお所得の発生原因を明らかにせず、その上、審査決定においては、仮払金を島田春蔵よりの架空仕入等に基づく所得によるものとしながら、本訴においては、これをも主張せず、唯期末貸借対照表の修正による資産の増加額をもつて、各事業年度の申告洩れ所得と主張するにとゞまるのであつて、その認定は著しく不合理なものといわなければならない。

二、別表第一ないし第三の被告主張額に対する認否。

別表第一ないし第三の被告主張額のうち、左記項目を争い、その余をいずれも認める。

なお、仮りに、仮払金に関する被告主張が正当と認められれば、未収利息、繰越利益金、未納事業税が被告主張額のとおりとなり、従つて、被告主張の当期利益金となることは争わない。

1  昭和二八事業年度(別表第一)否認項目

仮払金、当期利益金

2  昭和二九事業年度(別表第二)否認項目

仮払金、未収利息、繰越利益金、未納事業税、当期利益金

3  昭和三〇事業年度(別表第三)否認項目

仮払金、未収利息、繰越利益金、未納事業税、当期利益金

三、仮払金について。

1  認否

別表第四のうち番号23須藤福次郎に対する貸付金及び番号29晒賃(従つて、番号31、32、40、41の集計欄についても)を否認し、その余は、いずれも認める。貸付金については、後記のとおり、別表第四に記載されているものの外に、上村俊夫に対する貸付金がある。

なお、右否認項目についての数額はともかく、別表第四のような方法により算出される安藤仁三郎の不明資産増加額を原告よりの仮払金と認定することの合理性については争わない。

2  須藤福次郎に対する貸付金

原告は、須藤福次郎に対し、昭和二七年二月に金四〇万円、同年一二月に金八〇万円合計金一二〇万円を貸し付け、昭和二九年二、三、四月に毎月各金一〇万円、同年五月に金二〇万円、同年六月に金一〇万円を、昭和三〇年二、三、四月に毎月金一〇万円、同年五月に金二〇万円、同年六月に金一〇万円、以上合計金一二〇万円の返済を受けた。従つて、原告の各事業年度末の同人に対する貸付金は、次のとおりである。

昭和二八年六月三〇日現在 金一、二〇〇、〇〇〇円

昭和二九年六月三〇日現在   金六〇〇、〇〇〇円

昭和三〇年六月三〇日現在         金〇円

3  上村俊夫に対する貸付金

原告は、上村俊夫に対し、昭和二四年六月及び昭和二七年一〇月に各金五〇万円、合計金一〇〇万円を貸し付け、昭和二九年一月及び同年一〇月に各金三〇万円、昭和三〇年五月に金四〇万円の返済を受けた。従つて、同人に対する貸付金の期末金額は次のとおりである。

昭和二八年六月三〇日現在 金一、〇〇〇、〇〇〇円

昭和二九年六月三〇日現在   金七〇〇、〇〇〇円

昭和三〇年六月三〇日現在         金〇円

4  晒賃

(一) 晒賃に関する被告の主張事実のうち、被告主張のような経緯で安藤の取得した晒賃より定期預金が発生していることは認めるが、安藤の取得した晒賃から発生した預金が被告主張のものだけであるとの点は否認する。

(二) 安藤仁三郎が晒賃を取得するようになつた経緯は、次のとおりである。

晒業者は、戦時中の企業合同により煙草苗育布織物工業協同組合(以下単に組合という。)を作つて協同作業を行なつていたが、戦後材料仕入が困難となつた時代に安藤仁三郎の努力により、専売局より晒原材料の配給を受けることとなり、組合員のために晒加工を引き受けていた晒工場に対しては、右安藤が原材料を確保し、手間工賃のみを支払うこととし、組合員の支払う晒賃一玉当り金一六六円のうちより、晒工場には手間工賃として金五〇円を支払い、その余は安藤がこれを取得し、そのなかから原材料費を支払うこととなつた。しかし、晒加工材料の配給は、専売局より他の配給品とともに、組合に対して一括して行なわれていたため、晒加工賃の支払の関係は次のように行なわれた。

組合員は、晒加工賃を一玉当り金一六六円の割合で組合に納入し、組合は、このうちより安藤仁三郎のため立替支払つた材料費を差し引きその残額を安藤に渡し、安藤はこの中から一玉当り金五〇円の割合で晒業者に手間工賃を支払い、その余を自己の所得とした。安藤が、このような方法により取得した晒賃の係争各事業年度及び前事業年度中の金額は、次のとおりである。

事業年度

組合晒賃

安藤へ支払分

材料費等立替分

手間工賃

安藤所得分

二七年度

六、一二八、一一七円

七、七一二、八九六円

三二六、〇二〇円

一、八四六、三四三円

五、八六六、五五三円

二八年度

七、二七一、五二七

四、六二四、八四二

一、六六六、五七九

二、一九〇、九〇六

二、四三三、九三六

二九年度

五、八九七、二〇〇

六、二九一、六一七

一、九九五、八六七

一、七七六、八二六

四、五一四、七九一

三〇年度

五、八一一、三四二

三、〇四五、七〇八

一、八六八、六四八

一、七五〇、九五一

一、二九四、七五七

註「組合晒賃」は、組合員が支払う晒賃合計を、「安藤へ支払分」は、組合より安藤に渡された金額を、「材料費等立替分」は組合で控除した金額を、「手間工賃」は安藤が晒業者に支払つた手間工賃を指し、従つて、安藤において正味蓄積できる「安藤所得分」は、「安藤へ支払分」より「手間工賃」を控除した金額である。

なお、材料費が、昭和二七、二八事業年度、とりわけ昭和二七事業年度において少ないのは、手持材料が多かつたことによるもので、昭和二七年六月三〇日現在の手持原材料は合計金一九二万四、〇〇〇円である。

(三) 以上の次第で、安藤仁三郎は、係争各事業年度中晒賃収入として、次の金額の個人資産増加原因があつたものである。

昭和二八事業年度 金二、四三三、九三六円

昭和二九事業年度 金四、五一四、七九一円

昭和三〇事業年度 金一、二九四、七五七円

なお、安藤は、被告等の調査に対し、晒加工に関し、組合員への接待、寄附、諸官庁に対する機密費等を支出したため、晒賃の収益は一玉当り金一六円位であると答えたことがあるが、当時かかる支出はほとんどなく、同人が自己の所得税に対する更正処分をおそれて、経費を多大に述べたものであつて、税法違反の被疑者として取調べを受けていた同人がかような供述をしたとしても、異とするに足りず、この一事をとらえて晒賃収益を一玉当り金一六円と認定することは許されない。

5  仮払金に対する原告の主張

仮払金に関する被告の主張別表第四に従い、原告が争わない項目に、前記須藤福次郎及び上村俊夫に対する貸付金、晒賃を計上して、原告の係争事業年度中の簿外仮払金を算出すると次のとおりである。

昭和二八事業年度   金九一六、九五八円

昭和二九事業年度  △金一五四、七三一円(△はマイナスを示す。以下同じ。)

昭和三〇事業年度 金一、三五九、七四四円

四、所得金額について。

右原告主張の仮払金に基づき、別表第一ないし第三の係争項目に対する原告主張額を算定し、当期利益金を算出すると次のとおりである。

1  昭和二八事業年度

仮払金   金一、三七七、三八三円

当期利益金  △金三四八、〇七七円

2  昭和二九事業年度

仮払金   金一、七三一、二四九円

未収利息     金五五、〇一七円

繰越利益金 金一、二九一、二一九円

未納事業税    金一〇、六六〇円

当期利益金 金一、四七一、八一二円

3  昭和三〇事業年度

仮払金  金一四、六五五、一四一円

未収利息     金四五、七三三円

繰越利益金 金一、六七二、九六〇円

未納事業税    金九〇、八五六円

当期利益金   △金九〇、一八七円

第六、原告の答弁に対する被告等の反論

一、貸付金について。

原告の須藤福次郎及び上村俊夫に対する貸付金の主張は、被告等の認定に反する部分については否認する。

二、仮払金について。

原告主張の「組合晒賃」、「安藤へ支払分」、「材料費等立替分」、「手間工賃」がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、「安藤へ支払分」より「手間工賃」を控除した金額が、安藤仁三郎において正味蓄積できる金額に当たるとの点は否認する。安藤は、右金額中より、さらに材料費や接待費、機密費等の経費を支出していたのであつて、同人において正味蓄積できる金額は、これよりはるかに少額である。即ち、

(一)  安藤は、原告に対する犯則事件の調査の際昭和三二年五月六日査察官に対し「一玉一六六円の晒賃のうち六〇%は原料代に相当し、工賃を一玉当り五〇円支払えば含みは一玉当り一六円位となります」と答えている。(乙第八号証一二問に対する回答)。そこでこの一玉当り一六円の含みで被告調査の各期の晒数量によりその額を算出してみると次のとおりとなり、原告主張のような多額の晒賃収入が発生する余地はない。

昭和27事業年度 数量 38,100玉×16円=609,600円

昭和28事業年度 数量 47,466玉×16円=759,456円

昭和29事業年度 数量 40,756玉×16円=652,096円

昭和30事業年度 数量 42,538玉×16円=680,608円

計         2,701,760円

また、原告の主張を基準にして数量を算出のうえ、その数量に一玉当りの一六円を乗じてみると次のとおりとなり、いずれにしても原告主張の金額はあまりに誇大すぎるというべきである。

昭和27事業年度

数量

6,128,117/166・・・36,916×16円=590,656円

昭和28事業年度

7,271,527/166・・・43,804×16円=700,864円

昭和29事業年度

5,897,200/166・・・35,525×16円=568,400円

昭和30事業年度

5,811,342/166・・・35,008×16円=560,128円

計               2,420,048円

(二)  また、組合のため、晒加工を引き受けていた伊藤栄吉は、原告に対する犯則事件の調査の際、昭和三二年五月二九日査察官の質問に対し「一玉当り一六六円の晒賃のうち一四〇円八一銭相当が原料および伊藤栄吉が受領するところの工賃となり、この差額金すなわち二五円一九銭相当の余裕金が安藤仁三郎に生ずるものとなる」旨回答している(乙第二二号証一四問に対する回答)から、この差額金をもつて計算してみると後記のとおりとなり、(前記昭和三二年五月六日の査察官に対する安藤の回答によれば機密費に使用した分があるとのことである((乙第八号証一一問に対する回答))が、これを考慮に入れると右金額は更に少額となる。)従つて安藤が三期間に金八二四万三、四八四円の晒賃収入(雑収入)があつたとしても、このうち、資産化された額は、被告主張のとおりであつたと認めることが妥当であり、原告主張の金額は合理性を欠くものであるといわなければならない。

被告調査数量

昭和28事業年度

47,466玉×25円19銭=1,195,668円

昭和29事業年度

40,756玉×25円19銭=1,026,643円

昭和30事業年度

42,538玉×25円19銭=1,071,532円

計         3,293,843円

原告主張の晒数量

昭和28事業年度

43,804玉×25円19銭=1,103,422円

昭和29事業年度

35,525玉×25円19銭=894,874円

昭和30事業年度

35,003玉×25円19銭=881,851円

計        2,880,147円

また原告の主張による安藤の各期における晒賃収入金額(昭和二八事業年度金二四三万三、九三六円、昭和二九事業年度金四五一万四、七九一円、昭和三〇事業年度金一二九万四、七五七円)について原告の主張する晒玉数量を適用して計算してみると次のとおりとなり、右計算により得た一玉当りの晒賃収入金額を検討すると、前述した伊藤栄吉の査察官の質問に対する回答にいう差額金二五円一九銭を遙かに上廻ることとなつて、原告の主張額はこの観点からするも合理性を欠くものであるといい得るのである。

原告主張よりの試算(一玉当りの晒賃収入)

昭和28事業年度 2,433,936円/43,804玉=55円56銭

昭和29事業年度 4,514,751円/35,525玉=127円08銭

昭和30事業年度 1,294,757円/35,008玉=36円98銭

第七、証拠関係〈省略〉

理由

一  被告佐野税務署長の管轄権について。

原告は、原告の納税地が佐野税務署管内に指定されたのは、昭和三二年二月二四日であり、係争各事業年度経過後のことであるから、被告佐野税務署長は、係争各事業年度分法人税の更正につき、管轄権を有しないと主張する。

しかし、納税地の指定(当時の法人税法第四六条の三第一項、第三項)は、納税者の便宜というよりも、法人の原則的納税地である本店または主たる事務所の所在地が、常に当該法人の経営実態の把握に適当とはいえないところから、その事業の状況よりして、政府において、課税資料のしゆう集が容易であり、従つて課税処分の適正の担保に資するような土地を特に納税地として指定し、その土地を管轄する税務署長において、当該法人の課税関係を処理する途を開いたものと解されること、法人の事業活動は不断に連続するものであり、法人税は課税技術上事業年度を限つて課税標準が算出されるとはいえ、特定事業年度の課税標準の算出には、それに先立つ事業年度の経営内容の把握が不可欠であること、従つて、納税地の指定に伴ない新納税地を管轄することとなる税務署長としては、旧納税地を管轄する税務署長の有する当該法人に関する課税資料を引き継ぐべきものであること、これら諸点よりすれば、納税地の指定により、新納税地を管轄する税務署長は、指定後に到来する事業年度分法人税についてのみ管轄権を有するものと解すべきではなく、事業年度の前後を問わず、納税地の指定後は、当該法人に対する課税処分のすべてについて管轄権を有するものというべきである。

本件において、納税地の指定が係争各事業年度経過後の昭和三二年二月二四日に行なわれたことについては、被告は明らかに争わないが、係争各事業年度分法人税の各更正処分は、納税地指定後の昭和三三年二月二〇日に、新納税地を管轄する被告佐野税務署長によつて行なわれていることは当事者間に争いがないから、この点において、原告主張のような違法は存しないものといわねばならない。

二  所得金額について。

1  所得額認定方法の合理性について。

原告は、被告が原告の所得額を認定、主張するにあたり、期末貸借対照表を修正し、期中の資産増加額をもつて、原告の申告洩れ所得額とするのを非難し、損益計算の方法により、所得の発生源泉を明らかにしないのは不合理であると主張する。

しかし、税務官庁は、法人所得の発生源泉となる各取引の直接の当事者ではないから、その法人がどのような取引先といかなる取引をしたかについては、その法人がこれについて正確な記帳を行なつていない限り、これを確実に捕促することは事実上不可能である。法人の財産状況や事業内容よりして、その法人の申告、備付け帳簿書類の内容がその法人の取引を正確に表わすものではなく、申告洩れの所得のあることが明らかな場合に、これに対して税務官庁が常に損益計算により、脱漏所得の発生源泉を個別的、具体的に明らかにするのでなければ、課税処分が許されないとすれば、法人の記帳が不正確であり、あるいは正しい所得計算にその法人が積極的に協力することを拒むような場合には、脱漏所得の存在自体が明らかな場合でも、ただその発生源泉が明らかでないために、課税処分ができない結果となるところ、かくては、納税者の自主的な正しい申告を建前とする法人税法の趣旨にもとり、かえつてこれに背く者が不当に租税を免れることとなる。したがつて、税務官庁としては、法人に脱漏所得のあることが明らかな場合には、たとえその発生源泉を損益計算によつて明らかにし得ないでも、できるだけ合理的な方法によつて所得額を把握して、これに課税することができるものと解すべきであり、当時の法人税法第三一条の四第二項において、「財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模により各事業年度の所得金額を推計」すべきことを定めているのも、かかる趣旨に出たものに外ならない。もつとも、所得金額を認定する場合に、損益計算の方法によつて、その発生源泉を個別的に明らかにすることが望ましいことは明らかであるから、税務官庁において、これが可能な場合に、安易な推計に頼ることが許されないことはもちろんである。したがつて、原告の主張するように、損益計算の方法により所得の発生源泉を明らかにして所得を認定すべきか、推計計算によりこれを認定すべきかは、一般的、抽象的にこれを論ずべきものではなく、当該事案において、前記のような事情を考慮して、所得の認定方法が合理的と認められるものであるかどうかを個別的、具体的に検討することによつてこれを決すべきものである。

かような観点より本件をみるに、いずれも成立に争いのない乙第一ないし第四号証、同第一一号証、証人飯沼古寿、同稲垣隆夫、同船津幸雄(第一回)によれば、被告等の調査により、原告に関係あるものと認められる多額の預金が発見されたために、原告代表者等に申告内容の真否をといただしたところ、原告代表者等は、売上計上洩、架空仕入、架空経費等の方法によつて、所得の一部を申告していなかつたことを認めながらも、それらの取引先、取引内容については、個別的になにも明らかにしなかつたため、被告等において、損益計算によらず、貸借対照表を修正する方法によつて脱漏所得を認定したことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、このように原告が取引先すら明らかにしない状況では、被告等が、原告の脱漏所得の認定にあたり、損益計算の方法によらなかつたからといつて、直ちに不合理であるとはいえない。

もつとも、いずれも成立に争いのない甲第六ないし第八号証によれば、被告関東信越国税局長は、原告の審査の請求を棄却する決定の理由として、昭和二八、二九事業年度については、架空仕入否認、売上計上洩益金加算、昭和三〇事業年度には売上計上洩益金加算と記載して、損益計算の方法を採用したかのような記載があるが、成立に争いのない乙第一七号証、同一八、第一九号証の各一、証人飯沼古寿、同稲垣隆夫、同船津幸雄(第一回)の証言によれば、同被告も、本訴で主張するような修正貸借対照表によつて脱漏所得を認定したもので、ただ、当時原告の仕入先である島田春蔵が、原告において同人より仕入れたものと記帳していたもののうち、手形取引分は架空であると述べていたため、所得の発生源泉をできるだけ明らかにする趣旨から、昭和二八、二九事業年度分の島田からの手形は入分を否認する旨を審査決定の理由書に記載したに過ぎず、仮払金が、もつぱら、右架空仕入に基づくものであるとの趣旨を記載したものは認められない。しかも、成立に争いのない乙第五号証及び原告代表者本人尋問の結果(第二回)によれば、原告においても、被告等が損益計算によらず、前記預金の入金源を追求する方法により本訴における係争項目についての認定理由を説明をしていることを知り、これに対応する主張をも尽していることが認められるから、被告が本訴で損益計算関係の主張を具体的にしないことをもつて、直ちに不合理なものとはいえず、その他原告主張のような事情を考慮しても、なお、被告等の主張する所得の認定方法が合理性を欠くものとはいえない。

以上の次第で、被告等のとつた原告の脱漏所得の認定方法は、本件事実関係においては、合理的なものと認むべきである。

2  所得金額について。

原告は、被告等の所得算出の根拠を示す別表第一ないし第三のうち、仮払金、未収利息、繰越利益金、未納事業税、当期利益金(ただし、昭和二八事業年度については、仮払金と当期利益金)のみを争い、しかも仮払金に関する被告等の主張が認められる場合には、その余の各項目を争わず、仮払金の算出根拠を示す別表第四のうち、須藤福次郎に対する貸付金、及び晒賃を争うほか貸付金については同表掲記のもの以外に上村俊夫に貸付けたものがあると主張するに過ぎないから、結局、所得金額に関する本訴の争点は、右三点につきるわけである。

(一)  須藤福次郎に対する貸付金

成立に争いのない乙第一二、第一三号証、証人飯沼古寿の証言によれば、原告代表者安藤に対する貸付金は金八〇万円で、被告主張のとおり返済されたものと認められる。原告代表者本人尋問の結果(第一回)及び同人の作成した乙第五号証によれば、安藤は須藤に金八〇万円のほか、さらに、金四〇万円を貸し付けていた旨の供述及び記載があるが、他方、成立に争いのない乙第一号証によれば、同人は調査開始当初友人に対する金五万円ないし金一〇万円程度の時貸しのほかに貸付金はないと述べており、しかも、同人の供述によつても、利息も担保もとつていないというのであるから、これら諸点から判断しても右本人尋問の結果及び乙第五号証の記載は、たやすく措信し難く、また証人須藤福次郎の証言及び同人の作成した甲第九号証にも、右本人の供述と同趣旨の証言及び記載があるが、前記乙第一二、第一三号証に照らして措信し難く、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  上村俊夫に対する貸付金

原告は、安藤仁三郎は上村に金一〇〇万円の貸付金があつたと主張するが、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、かかる事実はなかつたものと認められ、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果と同人の作成した乙第五号証は、前記須藤に対する貸付金について述べたと同じ理由により措信し難く、証人上村俊夫の証言及び同人の作成した甲第一〇号証の記載は、前記乙第一〇号証により措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  晒賃

安藤仁三郎が煙草苗育布織物工業協同組合より支払いを受けた晒賃によつて、昭和二七年一〇月七日金一〇〇万円、昭和二八年六月一八日金一〇〇万円、昭和二八年九月一九日金一〇〇万円、昭和二九年九月二一日金一〇〇万円、昭和二九年一二月一六日金一〇〇万円のそれぞれ無記名定期預金が発生したことについては、当事者間に争いがない。

原告は、安藤の晒賃収入はこれにとどまるものではないと主張する。しかし、成立に争いのない乙第四ないし第八号証、証人船津幸雄の証言(第二回)によれば、安藤は被告等の調査に対し、当初は晒賃について何も述べず、その後晒賃に触れた際も、その具体的内容を秘し、同人が従前の申立を変更し、売上計上洩、架空仕入等の事実を否認し、原告関係の預金の発生源泉として個人資産を挙げた上申書(乙第五号証)においても、晒賃収入による無記名定期預金としては金一〇〇万円を主張するにとどまり、さらに、被告等の調査開始後約七カ月を経過した昭和三二年五月六日の質問てん末書(乙第八号証)においても、係争三事業年度の合計の晒賃所得として金二〇〇万円を主張していたこと、被告等が前記組合及び預金関係を調査したところ、晒賃収入で預金に預け入れられたと認められるものとしては、先に掲げた各無記名定期預金しかなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。以上の諸点から考えれば、被告等が晒賃より生じた安藤の個人所得を前記無記名定期預金額にとどまるものと認定したことに、とくに不合理な点はないと認められる。原告は、煙草苗育布織物工業協同組合の帳簿に、安藤支払分として記帳された金額から晒業者に支払つた手間工賃(一玉あたり金五〇円)を控除した金額が安藤の晒所得となると主張し、原告代表者本人尋問の結果(第二回)中には同趣旨の供述があるが、同人は、成立に争いのない乙第八号証においては、このなかよりさらに右組合関係の機密費や材料費を支出していたものであると述べ、また原告代表者本人尋問(第一回)においても、組合を通して支払う材料費の外に、かなりの材料費を支出していた旨を供述しており、第二回目の本人尋問になつて、はじめてかかる材料費の支出を否定するに至つたもので、このことに前認定の事実をあわせ考えると、原告の右主張は採用することはできない。

してみると、各事業年度末現在における安藤個人の晒賃収入に基づく預金額は被告らの認定どおりであると認めねばならない。

そうすると、別表第四のような方法により算出される安藤の不明資産増加額を原告よりの仮払金と認定することの合理性については争いがなく、しかも、仮払金の額が被告らの主張どおりであるとすれば、各事業年度の未収利息、繰越利益金、未納事業税、当期利益金が、それぞれ、被告ら主張のとおりとなることにつき争いのない本件においては、各事業年度の所得額についての被告らの認定は、なんら不合理な点がなく、正当のものと認めざるを得ない。

三  結論

以上の次第で、被告等の各処分には、原告主張点では違法のかどはなく、その余の点でこれが適法要件を具備することについては、原告は明らかに争わないから、被告等の各処分は適法というべく、原告の本訴請求は、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 濱秀和 町田顕)

(別表第一―第四省略)

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